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シンボル機能

 

 

前節(習得的行動)では、間接化した状況で適切に行動できるようになることが生体の適応範囲を飛躍的に広げることを説明しました。では、どのような機能が間接化した状況に対応するために必要なのでしょうか。

 

それに関する研究は、ハンターの遅延反応の実験によってはじめられました。この実験では、いくつか用意されているランプのうち、点灯したランプの下にあるボタンを押せば報酬(エサやお菓子)がもらえる状況がつくられました。しかし、実験の対象となる動物や子供はランプが見える場所に隔離されていて、ランプの点灯中は近づけないようにされていました。ランプの消灯後、どれくらいの時間をおいても適切な(点灯していた)ランプのもとへボタンを押しに行けるかが調べられたのです。

 

その後、この実験は多くの研究者によって、より適切な手続きに変更され、特に最近では、作動記憶ワーキングメモリ)の研究法として用いられています。たとえば、動物を対象とした場合、色の異なったカップをいくつか用意します。そのうちのひとつに、動物に見えるように報酬をいれ、その後スクリーン等で目隠しをします。一定時間の経過後、報酬の入ったカップを選べるかが調べられます。

 

ハンターの実験では、事前に点灯していた(もしくはしている)ランプのボタンを押すと報酬が得られることを学習させる必要がありますが、後に説明した方法であれば、目の前で見せるので事前の学習の必要がありません。ハンターの実験のように、事前の学習後にテストする方法を間接法とよび、後者のように事前の学習なしにテストする方法を直説法とよびます。

 

例外はありますが、一般的に系統発生的ないしは個体発生的に発達レベルが低い場合は、遅延可能な時間が短く、発達レベルが高くなるにつれて長くなります。また、発達に遅れのある子ども、とくに言語的コミュニケーションの欠如した言語発達遅滞の子どもでは、遅延可能時間は極めて短くなります。

 

これらの遅延反応では、生体は信号刺激を内的にとどめておく必要に迫られます。たとえば、「真ん中のランプ」というように言語にしたり、イメージにしたりして記憶しておく必要があるわけです。このような、以前存在した信号刺激の情報をなんらかの方法で保存しておく働きシンボル機能とよばれ、その過程はシンボル過程とよばれます。この過程は、高次の中枢の働きと密接に関係しています。また、経験によって得られた情報を、イメージや概念、知識などとして内在化(自身の中に定着させて保存)したもの表象とよび、その働きを表象機能とよびます。

 

一般的に、発達レベルの低い場合には、適切な方向などを向いたままにする姿勢固定や、点滅or点灯によって動きの速さを変える(点滅:ゆっくり,点灯:せわしなく)といったような運動動作によるシンボル行動を行います。発達が進むと、イメージのようなまったく内的な表象がシンボル機能をはたすようになります。ヒトのように、言語など記号化の手段を持つようになると、信号刺激の色や形などを言語化することによって、それをかなり長い間保持したり、組み合わせて新しい記号を作り出したりできるようになるのです。また、種々の信号刺激に共通した特徴をまとめあげ、たとえば「三角形」のようなより一般化した概念も取得できるようになります。

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