行動の水準
心理学では、行動の分析からこころの働きについて推論していきます(行動の研究と心理学参照)。しかし、ヒトやいろいろな動物が示す行動のパターンには、動物種によって、またそのときの状況や刺激によって単純なものから複雑なものまでさまざまです。したがって、そうした行動をひと括りにして扱うよりも、行動にみられる特定の特徴を目印にして、いくつかのレベルに分けて扱う方が便利です。
生体は、内部・外部からの刺激を受け取り、神経系や脳のさまざまな回路の仲介を経たあと、反応としての行動をしています。そこで、刺激を受け取ってから反応までが直接的か間接的かで行動を分類することができます。
直接的行動は、比較的短い神経回路によって支えられている行動です。この場合には、刺激を受け取って感覚器官に生じた興奮が、上位の中枢過程(大脳、大脳皮質)を経由せずに筋や腺の効果器に直接達しています。
すなわち、網膜や鼓膜、皮膚といった感覚受容器に与えられた刺激情報が、脊髄または脳幹などの下位の中枢で切り替えられて筋や腺といった効果器へと興奮が送られます。ヒトの場合、脚気診断で使われる膝蓋腱反射(膝を叩くを足が伸びる反射)などがこれにあたります。
この種の行動は、ある時点で与えられた感覚刺激によって規定され、支配されているということから、感覚支配的行動と呼ばれます。
一方、間接的行動は、感覚器官の受け取った興奮が上位の中枢(大脳、大脳皮質)を経由する過程を含む行動です。この比較的長い神経回路を通過するとき、記憶として保持されたり、過去に保持した記憶と照らし合わされたり、さらに組み合わされたりといった複雑な処理がなされます。とくに記憶や思考を含む行動がその良い例です。
この種の行動は、高度な情報処理過程である認知の働きが関係することから、認知的行動と呼ばれます。
認知的行動(間接的行動)では、刺激とその反応の関係がいつでも一緒だとは限りません。それどころか、刺激が与えられても適切な反応の時期まで情報を保持しておいたり、与えられた刺激に対してそのときは反応を行わず、その保持や組み換えを行ったあとにそれを知識として蓄えておくこともできます。
以上の感覚支配的行動(直接的行動)と認知的行動(間接的行動)を両極として、その間には多くの中間的な行動が存在しています。
