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性格の形成と変化

次に、どのように性格がつくられるのか、また性格は変化するのかという点について考えてみましょう。

性格の形成

 誰しも、むかつく嫌いな相手や、逆にとても好意を持てる相手が一人や二人はいることでしょう。その際、なんで嫌いなのか、なんで好きなのかと聞かれれば、その人の性格を理由にあげるかもしれません。

 そのようなことからしても、性格が何によってつくられていくのかという問題は、非常に興味深いところです。

 この問題はずばり『氏か育ちか』という問題に直面します。つまり、性格は遺伝的に決まるのか、それとも生活環境によって決まるのかという問題です。そこで、性格・行動への遺伝の影響を研究テーマとしている行動遺伝学と、養育環境などの影響を研究してきた心理学と両方の知見を借りながらこの問題について考えてみましょう。

 

 まず、性格は遺伝するのかという問題です。うん、とても面白い問題ですね。行動遺伝学的には、遺伝による性格への影響は20〜60%程度と考えられているようです。なぜ20〜60%と、こんなにも開きがあるかというと、性格への遺伝の影響は遺伝子の組み合わせで決まり、また特性などによってその影響が異なるためです。

 遺伝が性格に影響するとき、たとえば『まじめ性格の遺伝子』を持っているとまじめになりやすいというような話ではありません。遺伝による影響は、さまざまな遺伝子の組み合わせによって決まります。つまり、性格を決定する遺伝子があるわけではないのです。

 

 このように、ものすごい数の遺伝子の組み合わせによって、性格の20〜60%ほどが決定されると考えられています。確かに遺伝が性格に与える影響は大きいですが、遺伝子の組み合わせは天文学的なパターンになりますし、遺伝から性格を当てたり予測したりすることは不可能に近いでしょう。

 

 遺伝の影響が20〜60%とのことでしたが、残りは主に環境からの影響です。心理学では、養育環境(家庭環境)が性格の形成に大きな影響を与えると考えられ、研究されてきました。しかし、兄弟を対象とした研究では、その兄弟に共通した環境(つまり家庭環境)よりも、それぞれの友人付き合いや活動といった共通しない環境の方が性格により大きな影響を与えることがわかっています。

 同様に育てた兄弟の性格が違うという話は多く聞きますが、それは遺伝や家庭環境のせいではなく、社会的な環境によると考えた方が良いでしょう。

 

性格の変化

 自分や他者の性格を変えたいだったり矯正したいだったりという話もちらほら聞きます。「旦那のずぼらな性格が…」とか、良い例ですね(善くはないですが)。性格は変わるのか、変えられるのかという問題も、多くの人が気になるところだと思います。

 

 現在の心理学では、性格に一貫性はあまりなく、状況によって変化していくと考えられています。これは、数多くの研究とデータによって示されています。しかし、私たちの感覚的には「性格はなかなか変わらない」と思っている人も多いのではないでしょうか。では、なぜこのような研究・データと一般的な感覚に違いが生まれるのでしょうか。それにはいくつかの理由がありますが、ここでは特にわかりやすい2つを紹介します。

 

 まずひとつは、私たちが他者のすべてを知っているわけではないということです。たとえば、同僚のまじめで温厚な鈴木君は、家に帰るとものすごい不まじめで攻撃的な人かもしれません。典型的な内弁慶というやつです。しかし、鈴木君の同僚からしてみれば、会社にいるときのまじめで温厚な鈴木君しかしらないため、「鈴木君はまじめで温厚な性格だ」と評価されます。このように、ある限定的な場面しか知ることが叶わないために、性格の変化に気づかない可能性があります。

 

 もうひとつは、確証バイアスによるものです。確証バイアスとは、私たちは自分のもっている信念に合ったものの見方をしたり、記憶したりするという認知の歪みを指します。たとえば、ある女性の一日の生活についての動画を見てもらうとき、片方には「彼女は秘書です」と伝え、もう片方には「彼女はハンバーガーショップの店員です」と伝えると、見たのは同じ動画にも関わらず前者は秘書っぽい行動や場面をよく記憶し、後者はハンバーガーショップ店員っぽいところをよく記憶します。つまり、私たちは自分のもっている情報を確信するための情報を集めようとし、また記憶しておこうとするのです。

 このことから、たとえ性格が変わっていっても、佐藤君は不まじめだと思っていると、佐藤君の不まじめなところを無意識に探し、よく記憶してしまうため、いつまでたっても佐藤君は不まじめに見えてしまうのです。

 

 最後に、ではどうしたら性格を変えられるのかという問題について考えてみましょう。その際、ここまで考えてきた性格が何によって形成されるのかという話がとても役立ちます。

 おさらいすると、性格は遺伝と環境の両方に影響を受けるとのことでした。遺伝による影響は遺伝子の複雑な組み合わせによるものでよくわかりませんし、むしろ先天的な要素ですから変えようがありません。そこで、性格を変えるならば環境を変えていきましょう。

 たとえば怒りっぽさを直したいならば、怒らなくてよい新しい環境に移動してみたり、既存の環境の中に怒りっぽさを抑制できるような要素を組み込んだりするのが良いかもしれません。

 

 性格を変えるには、自分や他者の性格と今いる環境がどのように関連し、影響しているのかを十分に考え、その環境を変えていく努力が必要です。

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